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カビは灰色の廊下を進む。
夢のような淡い色はない。
濃淡すらない。
ただの灰色の道。
警棒を腰に差した男は、ある部屋にカビを導いた。
そこにあるのは、茶菓子と茶と、仏像だった。
男は告げる。
「これからあなたの処刑が行われます。」
カビは角にある椅子に腰掛けた。
ゆっくりと、緑茶を啜る。
男はテーブルを挟んで向かい側に座り、話し掛けてきた。
「何故……首相を暗殺した?」
カビの手が静止する。
「お前はかつての首相を殺害し、過去の殺人も考慮され、死刑を宣告された。私は、首相を殺した者の心理が理解出来ない。」
男は独白のように重々しく語りかける。
「首相を殺して、何が変わった?何も変わらないだろう。私の生活に影響はないし、お前が死刑を免れる事もない。お前は非力だ。何もしていない。」
男の言葉はひとつひとつカビの心にのしかかる。
何も変わらない。
カビは何もしていない。
カビは何も出来ないのだ。
現実は非力なのだ。
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