ゆめゆめ

14/17
前へ
/17ページ
次へ
カビは灰色の廊下を進む。 夢のような淡い色はない。 濃淡すらない。 ただの灰色の道。 警棒を腰に差した男は、ある部屋にカビを導いた。 そこにあるのは、茶菓子と茶と、仏像だった。 男は告げる。 「これからあなたの処刑が行われます。」 カビは角にある椅子に腰掛けた。 ゆっくりと、緑茶を啜る。 男はテーブルを挟んで向かい側に座り、話し掛けてきた。 「何故……首相を暗殺した?」 カビの手が静止する。 「お前はかつての首相を殺害し、過去の殺人も考慮され、死刑を宣告された。私は、首相を殺した者の心理が理解出来ない。」 男は独白のように重々しく語りかける。 「首相を殺して、何が変わった?何も変わらないだろう。私の生活に影響はないし、お前が死刑を免れる事もない。お前は非力だ。何もしていない。」 男の言葉はひとつひとつカビの心にのしかかる。 何も変わらない。 カビは何もしていない。 カビは何も出来ないのだ。 現実は非力なのだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加