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男は話題をずらした。
「お前の過去の殺人……。恋人を灰皿で撲殺した事件。立場上言ってはいけない事だろうが、あれの方がずっと意義があったように思えるよ。」
男は諦めたように席を立った。
「何で二度目をやっちまったのやら、さっぱりだ。私にはお前の心なんか分からない。」
カビはがっくりとうなだれた。
菓子も茶も、底が尽きた。
男は関係者複数人と共に、カビを仏像の前で祈らせる。
「次は遺書だ。書き残したい事があったら……。」
カビはそれを、長々と書いた。
両親を失った彼に、身内は一人も思い付かなかったが、それでも誰かに懺悔するつもりで書いた。
男は次の部屋へと案内する。
「さあ、いよいよ時間だ。」
カビの前にある、白い縄。
死刑台。
いよいよ最期なのだ。
カビは一歩退いたが、後ろで控えている、冷徹さを発散する男に押し戻された。
カビは観念し、首に縄を括った。
男は離れた位置で見守っている。
カビは無念であった。
何をしてもうまくいかなかった。
学問を捨てた少年時代。
犯罪に手を染めた青年期。
恋人に出会い、一度は救われた。
しかし、その恋人の秘密を知り、かっとなって殺してしまった。
それからは自暴自棄。
せめて歴史に名の残るようにと、首相を殺めた。
目論みは大きく外れ、一瞬の話題になり、それで終わりであった。
カビは自分の人生を後悔した。
俺は何をやっていたのか。
何処で間違えたのか。
何をすれば良かったのか。
今更悔いても、全ては手遅れ。
カビが落下を感じたかと思うと、強い力が首に襲い掛かった。
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