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カビは首に強烈な圧迫を感じながら、人生の走馬灯を見ていた。
あらゆる思い出を蘇らせながら、急速に現在へと接近してくる。
子供時代、成人してから、彼女と出会った頃。
そして……。
カビは暗転した視界の中で、例えようもない感情に満ち溢れた。
あの制服の少女。
カビにまるで従わなかった少女。
カビは一度、彼女に会っていた。
恋人と出会った後。
彼女は唐突に現れ、罵るだけ罵って、去っていった。
その時知ったはずだった。
その少女が恋人の娘だった事を。
それを恋人に問い詰めて、口論になり、我を失い、気付いたらああなっていた。
あの少女は、人生を狂わせた元凶のようなものだったのか。
何故今まで忘れていたのか。
他の不幸にばかり目を向けていたからか。
なんにせよあの少女は許せない。
もし生まれ変わったら、必ず殺して……。
カビは最後の瞬間、涙を流した。
歪んだ自分に向けて。
殺された被害者に向けて。
あの少女に向けて。
悪かったのは他人ではない。
全て自分が悪かった。
全部知っていたはずだ。だから俺は夢でもカビなんだ。
何故変えようとしなかった。
何故目を背けていた。
何故……。
最後の瞬間、カビの脳裏に、あの少女が現れた。
少女はかつて、罵倒の中で、言ったのだ。
一人にしないで、と。
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