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カビの書いた遺書を、何度も読み返す女性がいた。
おかっぱ頭の美しい女性。
何度も何度も、読み返していた。
「馬鹿な人……。」
女性は遺書の束をそっとテーブルに置いた。
唯一身内と呼べる関係であるという事で、その遺書は女性が引き取ったのである。
「あの時、わたしはあの人に会いに行った……。」
少女はその男を許さないつもりだった。
「だけど、あの人なら頑張って変われるかもしれないって……見た瞬間思った。」
少女は目前の男を罵った。
当初の予定通り。
本心は既に変わっていたのだが。
そこにいるだけで、足が震えた。
罵る事しか出来ず、臆病にも逃げ帰ってしまった。
本当は他に言いたい事があったにも関わらず。
逃げてしまった。
「本当は、お母さんがわたしを捨てようとしてたから……わたしには、どうしたらいいか分からなくて……」
女性は涙を止める事が出来なかった。
「助けてほしかったのに……。言えなかった……。」
その女性は思うのだ。
もし、助けを求めていたら。
もし、言いたい事を言えたなら。
誰も死なずに済んだのかもしれない、と。
だが、何もかも過ぎてしまった。
首相も母も、父になるはずだった彼も、もういないのだ。
何をするにも手遅れ。
しかし、彼女は毎晩のように夢で見るのだ。
彼と幸せに暮らす夢を。
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