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カビは道らしい点線の列に沿って歩いていく。
パステルカラーの歩道。
並木も自動車も信号もない。
人もいなければ鳥もいない。
ただし犬がいる。
「噛むぞ。」
幾百ものビー玉で構成された犬。
精巧な細工品のような犬。
全身で光を反射させながら単調に吠えている。
「噛むぞ。噛むぞ。」
かちかち。
口らしき部位が動く度、軽い音が響き渡る。
犬は尚も吠えている。
「噛むぞ。噛むぞ。噛むぞ。」
そして、とうとうカビの脛に飛び掛かった。
鋭くもない丸い牙を立て、迫力もない眼光を携え。
飛び掛かった。
カビは足を振り、その鼻先に蹴りを叩き込んだ。
解き放たれたようにビー玉は拡散し、ばらけて散った。
道の向こうに。
道のこちらに。
道のどこかに。
散らばり、消えた。
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