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カビは退屈さを感じた。
それでも夢から立ち去ろうとはしなかった。
いつまでもここにいる訳にはいかないだろう。
だが、出来る事なら、いつまでもここにいたかった。
カビは夢が好きだった。
変化に富み、彩りに満ちた夢の国が好きだった。
時には心の傷をえぐられる事もあったが、それもある種の慰めになるのだ。
穏やかに、温かく、時は過ぎていくのだ。
「いつまでいる気?」
ふと気が付くと、道の先に少女が立っていた。
どこかの高校の制服。
低い背丈。
おかっぱ頭。
そして何より、その少女は美しかった。
まさしく、夢のような少女。
「何か言ったらどう?」
少女はぶっきらぼうに言う。
「あなたはここで何をするの?」
不機嫌そうに問い掛けてくる。
カビは予想外の展開に呆然としていた。
この世界には、カビ以外の人間はいなかったはずだ。
でも、どうして。
少女がいるのか。
カビは返答しようとした。
「ああ、もう結構よ。あなたはどうせ糞みたいなへたれ虫。」
その少女は悪態をばら撒き、消滅してしまった。
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