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「畜生!いつもいつもなんなんだよあのハゲ!」
勢いよく飲み干したビールジョッキをガンッとテーブルに叩きつける。佐々木知宏(ささき ともひろ)は28歳独身のサラリーマンである。会社での成績はそこそこなのだが、上司からの部下いじめがあり、毎晩のように居酒屋で愚痴を言っている。
「佐々木さん飲み過ぎよ?」
女将の七海歌穂(ななみ かほ)が心配そうに声をかけた。彼女は病に倒れた両親の面倒を見ながら、店を切り盛りしている。
「飲まなきゃやってらんないよ。あの上司が消えない限り、俺に幸せはねぇんだろうな…。」
頭を抱えてうなだれる知宏に、少しでも元気付けようとした歌穂が話し出した。
「そういえば、最近変な噂があるのよ。なんでも、メイドの格好をした女の子らしいんだけど、彼女ね、『幸せの運び屋』なんですって。」
「『幸せの運び屋』?」
「ええ。努力をしている、幸せになるべき人に幸せを運ぶんですって。」
「へぇー。でもそれ、都市伝説みたいなもんだろ?当てになんないよ。」
「でも、本当にいたら幸せになれるんだもの。素敵な話よ。」
「そうだなー。俺にも幸せは運ばれるかな?」
「佐々木さん頑張ってるもの。きっと運んでもらえるわ。」
知宏は少し笑顔を見せ、ありがとう、と言った。
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