第一章

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「畜生!いつもいつもなんなんだよあのハゲ!」 勢いよく飲み干したビールジョッキをガンッとテーブルに叩きつける。佐々木知宏(ささき ともひろ)は28歳独身のサラリーマンである。会社での成績はそこそこなのだが、上司からの部下いじめがあり、毎晩のように居酒屋で愚痴を言っている。 「佐々木さん飲み過ぎよ?」 女将の七海歌穂(ななみ かほ)が心配そうに声をかけた。彼女は病に倒れた両親の面倒を見ながら、店を切り盛りしている。 「飲まなきゃやってらんないよ。あの上司が消えない限り、俺に幸せはねぇんだろうな…。」 頭を抱えてうなだれる知宏に、少しでも元気付けようとした歌穂が話し出した。 「そういえば、最近変な噂があるのよ。なんでも、メイドの格好をした女の子らしいんだけど、彼女ね、『幸せの運び屋』なんですって。」 「『幸せの運び屋』?」 「ええ。努力をしている、幸せになるべき人に幸せを運ぶんですって。」 「へぇー。でもそれ、都市伝説みたいなもんだろ?当てになんないよ。」 「でも、本当にいたら幸せになれるんだもの。素敵な話よ。」 「そうだなー。俺にも幸せは運ばれるかな?」 「佐々木さん頑張ってるもの。きっと運んでもらえるわ。」 知宏は少し笑顔を見せ、ありがとう、と言った。
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