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少し残っていたビールを飲み干すと、酒代を置いて店の扉を開けた。
「ありがとうございました。」
歌穂の言葉に、知宏は片手を少し上げて挨拶をし扉を閉めた。扉を閉めても店の中の賑やかな声が聞こえてくる。午前0時。本当はまだまだ飲んでいたいが、少し仕事が残っていたため、知宏は家路をゆっくりと歩き始めた。
大分暖かくなったとはいえ、まだ夜は寒い。コートのボタンを留め、ポケットに手を入れて家を目指す。
20分くらい歩くと、知宏の住んでいるアパートが見えてきた。街灯が消えかかっているためか、いつもより暗く感じる。
「仕事する前に、風呂入るか…。」
ひとり言を呟きながら、階段で2階へと上がると、知宏は1度足を止めた。自分の家の前に誰かが立っていた。
「あの…。」
恐る恐る声をかけた。はっとしたように、誰かは知宏の方を向いた。
「佐々木…佐々木知宏さんですか?」
知宏の酔いが一気に覚めた。少しずつ近付いてくるその人物は、見知らぬ少女だった。知宏が知らない少女は、知宏の名前を知っていた。
「なぜ…俺の名前を…?」
「申し遅れました!私は、運び屋のユキと申します。貴方様に試練を与えに参りました!」
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