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「…はっ?」
知宏の反応はごく自然である。真夜中に、自分の家の前に、自分の名前を知る見知らぬ少女に、いきなり試練を与えるなどと言われた経験のある者は少ないだろう。誰だって、子供がふざけていると考える。
「誰だか知らないけど、俺は疲れてるんだ。子供の遊びになんか付き合ってられないよ。さっさと家に帰りなさい。」
少女の隣を通り過ぎ、鞄を漁って鍵を探した。
「いや、でも、あの…この試練を突破できれば、貴方には幸せが与えられます!」
その言葉を聞いた瞬間、知宏の手は止まった。そしてゆっくりと少女の方を向いた。
よく見ると、少女はレースのカチューシャをしていた。紺か黒か、暗い色のワンピースに真っ白なエプロンをつけていた。丸襟で、赤いリボンが真ん中についていた。
「メイド…服?」
本物のメイド服を見た事がない知宏だったが、彼の脳内イメージでは、少女が着ている服はメイド服だ。
運び屋。
幸せ。
メイド。
何処かで聞いた話だ、と知宏は考える。
〔そういえば、最近変な噂があるのよ。なんでも、メイドの格好をした女の子らしいんだけど、彼女ね、『幸せの運び屋』なんですって。〕
「幸せの、運び屋…?」
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