第一章

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知宏の問いに、少女は静かに頷いた。 「私は『幸せの運び屋』ユキ。オーナーの命により、貴方に試練を与えます。貴方が試練を突破できれば、幸せを与えます。勿論、拒否する事も可能ですが…。」 知宏には、ユキがからかって言っているようには見えなかった。少し考えてから知宏は頷いた。 「…分かった。その試練とやらを受けてやるよ。」 真っ直ぐにユキを見て答えた。 「承りました。」 ユキはパンッと手を叩いた。その音が夜の闇に消えると同時に、知宏は何か言い様のない違和感を覚えた。 「オーナーより貴方に課す試練。それは病に打ち勝つ事です。」 「病?俺は至って健康なんだが…?」 「私にこれ以上の事は言えません。試練を突破する事が出来た時、オーナーより貴方に幸せが贈られます。オーナーからの幸せは私が責任を持って運びますので、再び私が貴方の前に現れた時、貴方は試練を突破した事になります。」 「ほう…。」 納得したような、してないような。そんな気持ちで知宏は自分の胸に手を当てた。心臓は正常のようだ。 「それでは、失礼いたします。」 ユキは階段を音を立てずに下りて行った。知宏が上から階下を見た時には、既に彼女の姿はなかった。 「彼女は、人間ではないのだろうか…。」 知宏の呟きに、返事は返ってこなかった。
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