第一部 第一章 入隊ひと騒動

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◇  フランス外人部隊。  何故だったか一切の記憶がない。それを狙っての軍曹のオゴリだったのだろう、あいつに一杯喰わされた!  去る二十四時間前、つまりは昨夜だが、街角のバーでしけた酒を飲んでいたところに、ガタイの良い男がビール片手に近づいてきた。  徴募担当軍曹であったのは、今になってから気付いたが時すでに遅し、入隊申請書にサインしてしまった後だった。  奴は祝いだとか何だか言って、ビールを勧めてきた。これを断るような男は、バーで酒なんて飲んじゃいない。  甥っ子が生まれただの何だのと、語る内容は事実だったんだろうが、狙いは全くの別にあった。  陽動作戦にがっちり嵌められたわけだ。結構なペースで杯を重ねるうちに、意識が遠くなってきた。  飲み潰れるのはそんなに珍しくもないが、目が覚めたら簡易ベッドに横たわり、暫し考えても場所がわからないのは初めてだった。  身の回りの品を確かめるが全て無くなっていた。身一つとの表現が似合う。古い質素な部屋だが、清潔にしてあるのがわかる。病院や監獄ではないように思えた。
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