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庄助は便所の戸を閉めて、
手水場で口をゆすぎながら、また月を仰いだ。
そうしてから、
月明かりを鈍く返す廊下を、
軋(きし)まぬようにして歩いた。
そうやって寝室の前まで来ると、障子に手を掛けた。
途端、
激しく妙子を愛しいと思いはじめ、
妙子と初めて逢った時からのことが、次々と思い起こされた。
しばらくしてから、
蚊帳に入った庄助は、
ゆっくりと妙子の側に寄って膝を折り、
妙子の寝顔を見つめた。
(妙子、わてはお前が愛しい。……別れとうない)
その気持ちは涙となって、妙子の胸辺りに落ちた。
(わては……お前の息苦しく辛い思いなど……
ちっとも分かってへんかったな……堪忍やで)
妙子の手は静かに伸びて、
庄助の手を握った。
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