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「母ちゃん、おかわりや。少なめでなぁ」
妙子は箸を置くと、ひかるの茶碗を受け取った。
家族三人は、
それぞれの位置に座り、朝の卓袱台を囲んだ。
「ひかる、
まだぁあちこちのガキ大将にぃ喧嘩ぁ売り歩いてんのかいな?」
ひかるは眼を輝かせた。
「せや、父ちゃん!
まだ負けたことないんで。
男てちょろいもんやわ。
あっ、母ちゃんサンキュー」
妙子が口を挟んだ。
「何がちょろいじゃね。
怪我でもしたらどげんするがねっ。
嫁に行けんごとなるがね」
おでこを弾かれた。
「あ、痛いなぁ母ちゃん」
庄助を見ながら。
「庄助さん、あんたからも何か言うてくれんね」
馴れない庄助は、口をモゴモゴしていたが。
「あぁぁ喧嘩はアカンでひかるぅ。死んでまう」
「死ぬぅ?
たかが小学生の喧嘩やで。
死ぬまでやらんわ。
ふつうそないな喧嘩ぁするかぁ」
「そないやな、死ぬまでやらんわな」
妙子は、昨夜から何やら引っ掛かるものを、
庄助に感じてはいたが。
そうやって団欒(だんらん)が弾んで、
庄助と妙子は、時々には眼を見合せて、
過去を語れない自分を、情けなく思った。
ひかるのふた親は、
その昔……
殺人者と娼婦なのだった。
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