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それを支えた者が居た。
『大丈っごわんか、庄助どん』
菊島伍長だった。
『あ、分隊長殿』
庄助は菊島に支えられながら、
一関を背負い直した。
『庄助さぁ
まっこち辛か思いごわしたなぁ』
菊島は、庄助を公の場以外では、
階級では呼ばなかった。
『分隊長どの、わては……
一関はんを殺してもうたでおますぅ』
『庄助さぁ、
あや(あれは)仕方んねぇこっじゃった。
わいわれ(自分自身)を、そげん(そんなに)責めてはいかんち』
菊島が、階級で呼ばないのには、
庄助に友情を抱いていたからであろう。
『さあ、行っもそ!』
後ろを振り向いて、菊島は叫んだ。
そうしてみんなは、水を得たようにしっかりと踏み出すと、
菊島の背後に並んで、道なき道を進んで行った。
進んで行きながら、
松山一等兵は、菊島が手に持つ麻袋と、麻の包みが気になった。
『分隊長殿~~、分隊長殿が左手に持っておられる麻の包みは、
いったい何ぞなもしぃ?』
『あ、こい(これ)ごわすか』
菊島は歩みを止めると、
上半身を振り向かせて、その麻の包みを高く上げた。
『松山と山川どん、こん中身は、おはん(あなた)達が背負うちょる仏様の、
生の首じゃもんど!』
と言って、悔しい思いをあらわにした。
その上げた麻の包みの周りには、
臭いを嗅ぎ付けた、蝿や得体の知れぬ虫らが集(たか)っていた。
担ぐ三人は、
改めてその様な状態に気づき、
慌てて身体を揺さぶりながら、その虫らを払った。
『ひぇ――っ、
おえんぞなもし―――!』
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