別れの日(昼3、食堂)

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 ガラガ~~ラッ 「父ちゃん、何ぃボ~ッとしてんのや。 こっちや、こっちい~~」  ひかるは、 壁の台に置かれてある扇風機の角度を覗きつつ、 椅子を引きながら手を振って、そう叫んだ。  父親は、すんませんなぁなどと昼時の混む客に気遣いながら、 ひかるの引いてくれた椅子に掛けた。 「父ちゃんとこ、特等席やねんで」  ひかるはさも得意そうにしてから、 父親に注文を訊いた。 「俺はいちごや、 父ちゃん、なんするん?」  そう訊かれた父親は、 長い背筋を伸ばして手を挙げると……。 「ねぇちゃん! いちごや! いちごぉ二つや!」  店内に居るみんなが、ひかるに注目した。 「ひかるちゃんっ、 なんもそないな大きぃ声出さんかてぇ。 ほらっ、お客はんびっくりしてはるやないの……もぅっ。 いちご二つやね。おおきにねっ」  呼ばれたねぇちゃんは、ひかるのおでこを、 ピーン と弾くと、ハミングしながら厨房へと赴き、やんわりと冷蔵庫の扉を開いた。 「痛いなぁ~~。 うちらお客さんなんやでっ」  そんなようすを、父親は微笑ましく眺めていた。 ´
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