120人が本棚に入れています
本棚に追加
ガラガ~~ラッ
「父ちゃん、何ぃボ~ッとしてんのや。
こっちや、こっちい~~」
ひかるは、
壁の台に置かれてある扇風機の角度を覗きつつ、
椅子を引きながら手を振って、そう叫んだ。
父親は、すんませんなぁなどと昼時の混む客に気遣いながら、
ひかるの引いてくれた椅子に掛けた。
「父ちゃんとこ、特等席やねんで」
ひかるはさも得意そうにしてから、
父親に注文を訊いた。
「俺はいちごや、
父ちゃん、なんするん?」
そう訊かれた父親は、
長い背筋を伸ばして手を挙げると……。
「ねぇちゃん!
いちごや! いちごぉ二つや!」
店内に居るみんなが、ひかるに注目した。
「ひかるちゃんっ、
なんもそないな大きぃ声出さんかてぇ。
ほらっ、お客はんびっくりしてはるやないの……もぅっ。
いちご二つやね。おおきにねっ」
呼ばれたねぇちゃんは、ひかるのおでこを、
ピーン
と弾くと、ハミングしながら厨房へと赴き、やんわりと冷蔵庫の扉を開いた。
「痛いなぁ~~。
うちらお客さんなんやでっ」
そんなようすを、父親は微笑ましく眺めていた。
´
最初のコメントを投稿しよう!