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そんな父親をちらちら覗きながらも、
ひかるの胸中には、まだ微かな不安が漂っていた。
ひかるは、そんな不安を打ち消すかのように、
「父ちゃん、
あの映画のビラまだ貼ってあるやんか」
と、指した。
父親は指す方に首をひねった。
「そゃなぁ
建さん人気あるさかいにな」
その色褪せたビラは扇風機に煽られて、
時々には、みんなの視線を集めるのだった。
「ひかるぅなんか欲しいモンないか」
ひかるは首を傾げながらも、
「買うてくれるんか?」
と、尋ねた。
「あぁ、何でも言ぅたらええ」
こんどは逸らさない、父親の眼を見た。
「父ちゃん、昨夜(ゆうべ)母ちゃんにぃ」
ゴトッゴトリッ
「はいっ、
冷たいいちご二つ、お待っとうさんや。
ひかるちゃんの、シロップ多めにかけといたさかいにな」
ひかるは父親から眼を離した。
「サンキュー!
ねぇちゃん、きっとええお婿さん見つかるで。
痛いっ!」
ひかるはおでこに手をあてた。
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