120人が本棚に入れています
本棚に追加
´
庄助は、
便所から月を眺めながら、
「……南方で見たお月様は、
もうちょっと大きい気ぃがしましたんやけどなぁ」
と、呟きながら、
パチパチッ
と、頬っぺたの蚊を払った。
「なんでぇや。
虫もよう殺せんようなわてを、
何でぇ国は戦争に取らなぁあかんかったんや」
腰を激しく振って、尿を切ると、
庄助は手水(ちょうず)しながら、
思い出したくない出来事を、思い出していた。
それから二三歩足を運ぶと嘔吐を催し、
再び便所へと舞い戻ることになった。
「ぅぅぅ……あの出来事のせいや……ぅぅぅ」
庄助の言うあの出来事とは、
「はぁはぁ……ぅぅぅ
わては、……虫も殺せんようなわてが、
人を殺(いさ)めてもうたんや
それも、敵国の人やない……
戦う、同じ日本人をや……ぅぅぅ」
庄助は終戦間近、
二人の同胞を殺害してしまった。
一人は、将校だった。
´
最初のコメントを投稿しよう!