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彼は毅然として言う。見捨てる事は出来ない。銃声も相俟って、彼女には「友を助けに戻る」と大言壮語している風に聞こえた。
「それが無駄死にだって判らないほど、子供じゃないよね? キミが言っている意味、本当に判っているのかな?」
聞き間違えた――訳ではないようだ。まるで自信があるように、勝機への確信でもあるように彼は頷いた。
そんなはずがない。彼は英雄ではないどころか、大人ですらない、単なる中学生で、14歳の少年。中学生にしてみれば身長は高い方だと思うけれど、華奢な体付きは、真面目そうなメガネと相俟って、頼りなさしか醸し出さないくらいだ。
「大丈夫だよ。お前には迷惑を掛けるつもりはない。10分でいい。それで戻らなければ、お前1人で逃げろ」
「たった10分でいいのかな? それ以上、アタシは待たないからね」
言った言葉は、彼女なりの尊重だった。助け舟と言っても過言ではない。一時の感情でどうこうできるとは、到底思えなかったからだ。それでも。
「待たれていても困るよ。10分きっかりでいい。勿論、俺は死に急ぐ事はないから、それくらいは我慢してもらわないと」
彼は飽くまで真摯な態度で言う。冗談でそれなのか、素でそれなのか、彼は実に彼らしい。どこまでも演技臭い笑顔に彼女は嘆息する。気が付くと、彼女もまた口許が綻んでいた。同じ14歳で、同じ子供なのに、なんて考えていたのかもしれない。
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