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そのピンク色の桜の木の中に、一本だけ色の違う桜の木が眼に止まった。
薄黄緑色の桜の花が咲いていたのだ。
地味な色ながらも、その中では一際目をひく珍しい色の桜の花。
こんな色の桜は初めて見た気がする。
人の流れに押されるように歩きながら、目だけは、その桜に釘付け状態だった。
一枚花びらのソメイヨシノとは違い、デコレーションケーキの生クリームのよう。
みごとなまでの八重桜。
大ぶりの花はその細い枝にたわわに咲き誇っていた。
遅咲きの桜のようで、散り始めたソメイヨシノとは違い、今がまさに満開と言ったところだろう。
トン
桜に目を奪われ、歩む速度をゆるめていたわたしの背中に誰かがぶつかった。
「ごめん」
低い声が響いた。
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