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顔中に包帯を巻いた女の白いレインコートからは、水滴がピタピタと垂れ落ち、それに混じって真っ赤な血が、彼女の背中から垂れ落ちていた。
顔中に包帯を巻いた女は、百合子と向き合った。
『絶対に……、逃がさない……』
顔中に包帯を巻いた女の低い声が、百合子を震え上がらせた。
そして、彼女の顔に巻いてある包帯が、ひとりでにヒラヒラと床に落ちていき、彼女の顔が露わになっていった。
百合子は彼女の存在が恐ろしくて、生きた心地もしないまま、そっと彼女から遠ざかった。
〈 誰か、助けて!
誰か、私からこの女の人を追い払って! 〉
顔中に包帯を巻いた女の包帯がヒラヒラと落ちていき、百合子は彼女のえぐられた左目を見た。
彼女の左目には瞳がなく、まるで闇の中の洞窟のように、どこまでも暗く、不気味だった。
〈 何なのこの人。
どうして、この人の目は…… 〉
おぞましい顔をしたバケモノがゆっくりと、百合子に近づいてきた。
「来るな……、バケモノ!」
百合子は声を震わせながらそう言って、下駄箱から誰かの靴を取り、それをおぞましい顔をした女に投げつけた。
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