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百合子が見る限り、そこにはもう、悪霊はいなかった。
百合子はホッとして肩の力を抜き、そっと目を閉じて、その場に座り込んだ。
〈 私……、死なずに済んだのかしら? 〉
百合子がそう思ってふと窓の外を見ると、未だに激しい雨が窓を叩いている。
〈 早く、家に帰りたい…… 〉
百合子はそう思いながら、次から次へと流れ落ちる汗を拭った。
〈 お父さんとお母さんに会いたい……。
お父さんとお母さんと、ずっと一緒にいたい…… 〉
薄暗い空がまた明るくなり、雷鳴が轟いた。
降り続く雨は、さらに激しさを増した。
カツーン……。
カツーン……。
うなだれ、うずくまっている百合子の耳に、激しい雨音とは違う音が聞こえてきた。
カツーン……。
カツーン……。
〈 誰かの足音…… 〉
カツーン……。
カツーン……。
その足音は、しだいに百合子に近づいていた。
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