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私が窓を開けると、春の温かい風が部屋の中に入り込んだ。
そして私が掃除機を取り出し、掃除を始めようとしたとき、部屋の中で電話のベルが鳴った。
私に電話をかけてきたのは、入院中の母だった。
「お母さん、私は今、とっても幸せよ」
私は、電話の向こう側の母に弾んだ声で話しかけた。
「ちょっと田舎にある古い家だけど、私は武士さんが買ったこの家がとっても気に入っるの。
それにね、武士さんは今度、課長に昇進するし、百合子はピアノの発表会で、誰よりも上手にピアノを弾けたのよ」
私は、母に今の自分を知ってもらいたくて話しを続けた。
「お母さん、私ね、小さいときはずっと思ってたの。
私は、きっと幸せにはなれない灰かぶりの少女なんだって。
でも、決してそんなことはなかった。
お母さんが私に教えてくれたことは、正しかった」
「私が、あなたに教えたこと?」
「そう、お母さんが私に教えてくれたこと。
『願いはきっと叶う』って」
私は、上機嫌で母に話し続けてた。
私は家族を持ち、小さな家を手に入れた。
普通の幸せが、今、ここにある。
周りを見渡しても、私は決して、不幸せではない。
入院中の母は、退院したら、私たちとこの家に住むことになっていた。
「お母さん、お母さんは退院した後も、何も心配しなくていいのよ。
お母さんには、私と武士さんがいますからね」
「小夜ちゃん、本当にありがとうね。
お母さん、あなたには、本当に感謝してるわ」
「お母さん、気を使わないで。
みんな、お母さんが退院する日を待ってるわ」
「ありがとう、小夜ちゃん」
母はそう言った後、ちょっと間をおいて、思い出したように言った。
「そう言えば、小夜子のお友達って子がお見舞いに来てくれたわ」
「私の友達? いったい誰かしら?」
「えっとね、名前をメモしてたから、今から教えるわね」
私は、母がメモを取り出す間、母の見舞いに行った私の友達を思い浮かべてみたが、私には母の見舞いに行くような友達が思い浮かばなかった。
「えっとねぇ、今日、私の病室を訪ねてきたのは、立川早苗さん、野沢恵子さん、それに田所光江さん」
母が何の気なしに言った三人の名前が、私の体を凍りつかせた。
私の体は、ひとりでにガタガタと震えだし、呼吸は苦しく、私は立っているのがつらかった。
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