最後のお別れ

7/15
1311人が本棚に入れています
本棚に追加
/661ページ
しばらくすると、私の目の前に50代と思われる小柄な医師がやってきて、私に話しかけてきた。 「山村百合子さんのお母さんでしょうか?」 私は、うなだれていた顔を上げて、泣きはらした赤い目で、小柄な医師の顔を見つめた。 「はい、私が百合子の母の小夜子です」 「はじめまして。 私は外科医の門倉と言います。 私が、百合子さんの緊急手術を担当させてもらいました」 「百合子の手術は、終わったんですか? 今、百合子はどこにいるのでしょう? よろしければ、会わせてもらいたいのですが……」 私がそう言ったあと、二人の会話が止まり、私は嫌な胸騒ぎを覚えた。 「百合子さんなんですが……」 門倉医師は、重い口を開き、話を続けた。 「この病院に運ばれてきたときは、すでに出血多量で意識もなく、危険な状態でした。 内臓にも損傷が確認され、私たちは、すぐに緊急手術を行いました。 ですが……」 門倉医師はそう言うと、再び言葉に詰まった。 私は話を聞いているうちに、体中から血の気が失せていくような感覚を覚えた。 そして、恐らく聞いてはいけないであろう門倉医師の次の言葉を待った。
/661ページ

最初のコメントを投稿しよう!