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茉莉が立ち去った後の部屋では、異様な静けさに包まれていた。
先程の出来事を、未だ受け入れることが出来ないのであろう。
「父上…茉莉は…」
唐突に長男、煌が口を開いた。
「あぁ、間違いないだろう。」
「何故…何故記憶喪失に…」
そうー 茉莉は記憶を失っていたのだ。
愛する家族のことも…
あの忌々しい出来事も…
言葉、知識、そして習慣以外の全てを消し去ってしまっていたのだ。
「それより…朧(ロウ)は見付かったかい?」
統が執事の一人、献兎に尋ねた。
「いえ…依然として足取りすら掴めません。」
「そうか…」
「父さん、茉莉に真実を話さないで良いのかい?」
今まで沈黙を守ってきた次男、静が口を開いた。
「話したところで何になる?混乱させるだけだ。それに、僕は茉莉が苦しむ姿はもう見たくないんだ。」
「だけどさぁ…」
「その件については、また後日話し合いましょう。今日は各自、休養をとることに専念した方が宜しいかと…」
「あぁ、そうだな。」
献兎の提案を受け入れ、4人は部屋から立ち去った。
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