『崩壊へ』

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私と酒井さんはまず、女子大生殺害事件の洗い直しを始めることにした。 新しい情報を手に入れ警察に提供する、これが出来れば例の出版社の情報収集がずさんであるということが言えるだろう。 今日は初めての聞き込みの日。こんなこと初めてだから緊張する。 私と酒井さんは被害者の大学に向かった。 被害者周辺を知る、捜査の第一歩。 でもこわい。この大学には兄も通っている。 私を知っている人はいないだろうけれど、もし兄を悪く言う声を聞いてしまったら…。 それでも、進むしかない。いい情報が見つかるといい。あまりきついことを、言われないといい。 見かけた学生に適当に声をかければ、私の淡い期待は軽く裏切られた。 「あぁ、吉住さんの事件なら知ってますよ。犯人って教育学部の人なんでしょ?教師を目指してる人が人殺しなんて、こわい世の中ですよね。」 「犯人の櫻井って、裏じゃヤバイらしいっすよ。そりゃそういうやつならやるでしょって感じ。」 「殺人事件を起こした人と同じ大学に通っていたなんて、こわいです。」 「櫻井くんおとなしい人なんだよねー。やっぱおとなしい人はキレるとこわいってマジなんだなぁって!」 (もうやめて…!) 私が予想をしていたよりも、あの記事の内容はずっとずっと広まっていた。 みんなが兄を犯人扱いする。みんなそれがさも真実のように語る。 私はその事実がこわくてこわくて、聞き込みを続けることが出来なくなってしまった。 泣いてしまったんだ。 「絢子ちゃん…今日はもう帰ろうか。」 酒井さんは泣いてしまった私の肩を抱き、酒井さんの車まで連れていってくれた。 大丈夫だよ。 捜査が進めば誤解は解けるよ。 絢子ちゃんの記事が完成すればたくさんの人が考え直してくれるよ。 絶対、みんなが分かってくれる日が来るよ。 酒井さんは私が泣き止むまで、ずっとずっと優しく慰めてくれた。 泣いて充血した目が元に戻るまで、側にいてくれた。 家まで送ってくれて、心配をしてくれている。 「送ってくださってありがとうございました。また明日、今日と同じ時間によろしくお願いします。」 信じて優しくしてくれる酒井さんの存在がとても大きく感じた。 酒井さんの優しさに『ありがとう』を言ったら泣いてしまいそうだったから、明日の聞き込みのお願い、記事製作の続行を宣言した。
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