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兄を見れば、泣いているわけでもなく、震えているわけでもない。
現実を受け入れられていないのだろう。虚ろな目、近くにいるのに遠くに感じる。
「お兄ちゃん…?」
呼び掛け肩に触れれば、兄は、私を見た。
「絢子…。」
私を見る目が弱々しくて、抱き締めた。
抱き締めれば震え出す体、それがかなしくてかなしくて、涙が止まらない。
これから、私たちはどうなるの?
先が見えない。でも、大切な人が苦しんでいるのが嫌で。
抱き締めた兄が本当に弱々しくて、守らなければと強く思った。
疲れているだろう兄には休んでもらいたい。
それもあるが、それ以前に兄は精神的にダメージが大きく動ける状態じゃない。
兄の気弱は母親譲り、母も憔悴しきっていて頼りにならない。
仕事に出掛けた父に電話をして事情を話せば、すぐに帰ってきてくれた。
父は出版社に電話をしてから、知人に弁護士を紹介してもらっていた。
どうしていいか分からずただ不安になり焦るしか出来なかった私は、父を頼もしく思い、パニックになっていた状況からだいぶ落ち着いてきた。
これから私たち一家は苦しむことになるだろう。
なにも、悪いことなんかしていないのに。
でも嘆いている時間なんてない。
幸せな暮らしを取り戻したいなら、私たちには戦うしか道はない。
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