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「来たな。」
気だるい視界の、その真ん中。壁にもたれ掛かるように彼女はいた。よく響く声が、錆び付きかけていた耳に鋭くこだまする。けれど痛みはない。
「ひとつ訊く。」
うん……と首を縦に振る。少しの間をあけて
「……あたいが……嫌いか?」
”好きか?”ではなく敢えて”嫌いか?”で問いかけてきた。怯えが混じるのが声色からハッキリと伝わる。わかるんだ。これは″いいや、そんなことない″って返すべき場面なんだって。だけどボクは首を縦にも横にも振れなかった。yesでもnoでもない、本当に曖昧な灰色の回答を受けて彼女は心の底から哀しそうな顔をした。諦めや怒りを分量通りに混ぜ合わせたような、そんな表情がなんだか綺麗だった。
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