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世界は静かになった。灰色の空気が何事もなかったように辺りを漂っている。本当に何もない、殺風景な部屋だ。ヘドが出る。彼女の姿なんてものは最初っからなくて、全てが幻だったと言わんばかりの静寂がなんだか気持ち悪かった。
・・・彼女は誰だったんだ?
ものすごく単純で当たり前の疑問だ。知っているような気もするし、だけれどもハッキリこいつだ!と答えられるわけでもない。ここに来てもまた灰色・・・。考えても悩んでも、きっとそんなことは無駄なんだろう。わかってる。灰色なのはこの建物か、空気か、世界か。いいや、違う、きっとそんなんじゃない。黒くもなければ白くもない、1も2もない。ボクも彼女もきっとそうなんだ。黒を見たいと思いながらも白に手をさし伸ばせずにいるような宙ぶらりん。ピエロのような滑稽さはないし、喜劇のようなどよめきもない。あの娘もきっと、白と黒の狭間で座り込む人形なんだろう。親近感が湧いた。
誰もいなくなった空っぽの空間に別れを告げると、扉に手をかけた。さっきよりも重いような気がするのは一体なんだろう。変わらない世界で感じる妙な違和感。変わっていくことへの僅かな恐怖・・・。フラフラと漂うボクにはそれがなぜだかわからない。
扉の先には、垂れ込む雲に単色の路地が伸びる。いつもと変わらぬ灰色の世界がそっくりそのままあった。ホッとする自分がいたのは、変化と言えるだろうか。絶対に車の通ることのない道をトボトボと数歩歩き、振り返る。そこにあるソイツは、今は灰色の中に埋もれていて、自分の姿も名前も思い出せなくなった屍でしかないけれど。もがき苦しんでいるように一瞬写った。
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