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人形を売り歩く、と言うのは、中々に大変な仕事だ。
注文を受けて納品する、というようなものではない。各地の人形を取り扱う店を回り、買い手を探さなければならないのだ。
無論、有名な人形師ならば注文が入ることも有るだろうが…失礼ながら、シリル様は人形師としては有名だとは言えない。
注文なんてさっぱり来ないし、売れたとしても安値で買い叩かれてしまうこともしばしば。
それで、今回の結果はと言うと…惨敗と言って差し支えないものだった。遙々遠くの町まで来たのに安く売らされ、あっさりと今までの安値記録を更新してしまった。
これも全て、私が至らないせいだ。もっと私に巧みな交渉術があったなら、こうはならなかった筈。そう、自分を責め立て唇を噛み締める。
…まあ、こうなった時の為にと、野宿や食費を切り詰めて節約した旅費の残りがあるから、それを足せばそれなりの値段で売れたように見せることができるだろう。
問題は慧眼なシリル様を騙しきれるかどうか、だけれど…そこは自分の演技力に掛けるしかなかった。なにより、何時までもこんなところでぐずぐずとはしていられない。シリル様の世話や仕事の手伝いをしなければならないのだ。
ようやく腹を括った私は、道行く人々を眺めるのもそこそこにベンチから立ち上がると、足早にその街を後にした。
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