1人が本棚に入れています
本棚に追加
「只今戻りました、シリル様。」
数日ぶりに家に戻ると、シリル様は笑顔で私を迎えてくれた。それはとても眩しく、また私が旅先で早く見たいと思う程のものだったのに、今はただ、辛かった。
「あぁお帰り、カルメン。今回の売り上げはどうだったかな?」
それもその筈。久々に家に帰った私が先ずしなければならなかったのは、シリル様に嘘をつく事だったからだ。
…シリル様に嘘をつくのは大変心苦しいが、彼の悲しむ顔を見るのはもっと辛い。すみません、許して下さい…。
「こ、今回も、中々の高値で売ることが出来ましたよ!見てください、この成果!」
努めて明るく、さも嬉しそうに見えるよう、笑顔を作って金貨を差し出すと、シリル様はそれを受け取って確かめ始める。
…ばれないだろうか?と、シリル様の顔色を伺いながら、私は気を揉む。暫く勘定をしていたシリル様だったが、おもむろに顔を上げると、さっきよりも一層眩しい笑顔を見せてくれた。
「うん、ありがとうカルメン。人形が売れたのは、君のお陰だ。疲れただろう?お風呂に入って、ゆっくり休むと良いよ。」
この笑顔だけでも、私の苦労が全て報われたと思える。更に優しい御言葉を掛けて貰えるなんて…私は幸福者だ。
…最近、彼の笑顔を見ると、何故だかどきどきとして、落ち着きがなくなる時がある。最初は何なのか分からなかったけれど…今ではちゃんと、分かっている。
これは恋なんだ、と。私は、自分の主人たる人に、恋をしてしまったのだと──そう、思うようになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!