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「本当に無理しなくて良いのよ。
何も絶対に今週行かなきゃならないってわけじゃないんだし……
お母さん、来週には行くから!」
「お母さんったら、しつこいっ!
私、もう行くって決めたんだから…!」
「……そうなの?」
お母さんのまだどこか不服そうな表情に、私はなんだかおかしくなって笑ってしまった。
それに釣られて、お母さんも同じように微笑む。
今、私達が話していたのは、おばあちゃんの家に行くことについての話だった。
三年とちょっと前に亡くなった父方の祖母の家までは、うちから日帰り出来ない距離ではないけれど、交通の便があまり良くないから、朝早くに出ても、帰りは夜遅くになって、かなり疲れる。
だから、たいてい泊りがけで行く事が多い。
今は住む人のいないその家に、母は、二ヶ月に一度程、「プチ旅行」と称していそいそと出掛けて行く。
風を入れないと家が痛むだの、庭の花が気になるだの、そんな些細な理由から。
父は、本当ならば生まれ育ったその家に住みたいようなのだけど、そこから通勤するのは無理があるから、そんなことは口にはしない。
だけど、きっと定年になったら戻るつもりなんだと思う。
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