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白いタキシードを着たその人は、先生そのものだった。
先生は控え室の廊下から会場を見て誰かを探しているように辺りを見回している。
どうやらあたし達が来てることに気づいてはいないらしい。
「海斗、行こう」
「比奈!?」
先生の姿を見つけた瞬間、
会いたいという気持ちが最優先して身体が勝手に動く。
海斗の手を引っ張って、あたし達は先生のところへ歩き出す。
次第に早歩きになって、会場を横断した。
近づいてゆくにつれて、先生はあたし達の姿を発見したのか穏やかな笑顔を向けてくれた。
「先生!!」
「高月、世良。来てくれたんだな」
「……はい」
近くで見る先生は、いつも以上にカッコイイ人だった。
先が見えない付き合いをしていた人とは思えないくらい。
見惚れてしまいそうなタキシード姿は、会場の中にいる人の中で一番に輝いて見えた。
「先生、ほんとに結婚するんだね」
「……ほとんど政略結婚に近いけれどな」
「その割には、幸せそうだと思うけれど?」
「まぁ、奥さんは大切にしないと、ね」
先生は、すごく幸せそうに笑う。
よほどその奥さんに惚れ込んでいるのだろうか…。
以前、あたしと付き合ってる頃に見せてくれた笑顔と同じ顔をしている。
でもその笑顔はもう、あたしに向けられたものではない。
あたしを本当に愛してくれていた嬉しさと、もうあたしだけの先生じゃないという切なさが交差する。
……でも、あたしには海斗がいる。
あたしは、握ったままの手に力を入れた。
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