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《享》
ギィィィ…
森の奥に隠れた洋館のドアが、耳障りな音をたてて開いた。
桐人「やぁ、享君。どうだったかな…深紅は?」
享は、無言のまま桐人の母親が眠る棺桶にバックルを置き、倒したパライーターの生命エネルギーを転換した。
マリー「ちょっと、お兄様の質問に答えなさいよ」
部屋の奥で、マリーとヘィルがジュースを飲んでいた。マリーの声かけも無視し、享は話始める。
享「一日一回しかも、たった五分では、あまりにも足りない。僕は…また、何もできなかった」
蜘蛛型パライーター投縄は、確かに倒せた。しかし…ハルバードの前では深紅を装着する事もできず、梅原は重傷を負った。享は、またもや自分の無力さを噛み締める結果となった。
桐人「…深紅の使用には、血が必要なのだ。連続で使用すれば…君は死ぬ。しかし、どうにかならない事もないが…」
享「どうにか…できるのか!?」
沈黙する桐人。享は、桐人の目を見つめながら言った。
享「頼む…今のままじゃ…誰も守れないんだ…」
桐人「…携帯用の特製輸血パックを、持っていくといい。これを使えば、深紅の使用回数もアップする事が可能だ。ただし…副作用が起こる可能性もある」
享「副作用?」
桐人「深紅は、君の身体を疑似パライーター化させる生体兵器だ。使いすぎれば…おそらく、疑似だけでは済まなくなる」
二人の会話に、マリーが割って入る。
マリー「つまり、パライーターになっちゃうかもって事?人類を守る為に戦って、挙げ句の果てに化物になるって…最高にウケる♪」
桐人「それが嫌なら、リミッターをこえないようにする事だ。まぁ…私達は、君が約束さえ守ってくれれば…文句は無いがね」
マリーは笑いながら享の耳元で囁いた。
マリー「パライーターになっちゃったら…私が、逝かせてあげる♪」
享は、輸血を行った後…携帯用輸血パックをいくつか持って、たち去った。
享を見送った桐人は、小さな声でつぶやく。
桐人「君の守りたい人達が…その決断を喜んでくれるとは…思わないがね」
…夜は、更けていく…
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