第一章・殺し屋

8/9
前へ
/11ページ
次へ
-4- 雛は、孤児だった。 あの時、まだ一歳ぐらいだっただろうか。そのぐらいの時に俺が引き取った。 仲間内からは理解されなかった。そりゃあそうだ。殺し屋を雇うような人間が、なぜいきなり孤児を拾ってこにゃならんのだ。しかも赤子。 一部では俺が真人間に更正したんじゃないか、稼いだ金で慈善団体でも作る気じゃないか、と言われたほどだった。 金で女を買うようなやつはいたから、極少数から俺が男色家になったのではともいわれた。 理解されなかったと言っても本当に理解されなかっただけであり、噂話をするやつはいたが別にとやかく文句を言うやつらはいなかった。 本当の理由を誰にも言わなかったからだ。 その当時、俺は、今と変わらず殺し屋を雇っていた。まだ始めたばっかりだったがな。 そうだな。じゃあそのとき一人の殺し屋の話を軽くしようか。 俺が一番最初に雇った殺し屋。 仮に「佐藤」とという名前にしておこう。 俺は、その当時、金があった。株でもうけた金である。仕事には就かずに好きにやっていた。 しかし、人間、余裕ができると暇で暇で、本当に死にそうになる。 平凡だった。 その平凡を変えたい、と思った。 幸い金はある。何をしよう。 その時に、「殺し屋稼業」が、浮かんだ。ここ数年で流行りだしたのだ。警察も取り締まりに苦戦しているようで、殺し屋自体は捕まっても、雇う側は十数年捕まらずにのうのうと殺し屋稼業を続けているということはざらにあった。 殺し屋稼業が流行る、というのは一昔前では信じられなかったが、今では殺し屋の需要と、雇う側の増加もあり、流行っているのだ。 ともかく俺は殺し屋稼業を始めた。 その時最初に雇ったのが、「佐藤」である。 さっき俺が電話していた、関西弁の男の紹介で雇った。 俺は佐藤と、雇う前に一度会うことになった。会いもしないで雇いたくないし、向こうも雇われたくなかっただろう。 正直、若干怖かった。 当たり前だ。人殺しだぞ。狂気の人間だぞ。非現実的な話だぞ。 怖さと、平凡から脱却したことへの興奮とが入り交じっていたが、やはり恐怖感はずっと胸のなかに渦巻いていた。 それを興奮でごまかしていたかのようだった。 そして、ついに出会った。 「こんにちは。佐藤です。」 拍子抜けした。正直、“普通”だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加