第一章・殺し屋

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もちろん、彼は一般論からいって、普通ではないのだろう。 人殺しができるのだから。 「よろしくお願いいたします」 「…案外普通なのな。」 「え?」 思わず口に出してしまった。 だが彼は笑って「まあそうだよな」というような、納得したような顔をした。 「みなさん最初はそう言いますよ。最初はね。」 違う違う。そうじゃない。そうじゃない。お前が見た目は普通で実は殺人を行う異常人なんてことはわかってる。 ただ、なんというか、違う、違う。 俺が思っていたより、あまりにも、俺ら一般人に近すぎる。 俺は、殺人鬼とまではいかなくとも、殺人を行うヤツラは、一般人では理解できない位置にいると思っていた。違う。 近すぎる。 俺は初対面で、佐藤に対してそういう印象を持った。 つまりは、普段からずっと観察した上での印象ではないから、具体的な根拠はない。カンである。 だが俺のカンは見事に当たった。 彼を雇い、彼は何件か殺人をこなしていくが、やっぱり、“普通”だった。 殺人というものが、より近く感じるほど、普通だった。 彼こそ、近年の殺し屋の典型的なパターンだった。 殺した相手のことを少しは考えてしまうし、罪悪感というのも普通に存在する。 俺はバカにされた気分だった。
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