第一章・殺し屋

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-3- 雛の成長は順調、のようだな。 今日の態度を見て改めて安心した。 自分が望んだ通りではあるが、100%ではない。いや、正確にはこれから100%私の理想像を満たしているか試すのだ。 電話を取り、いつものところに電話をかける。 「もしもーし。50件終わったぞ。ありがとなー依頼持ってきてくれて」 『正確には売れ残りを押し付けただけやけどな。しっかしなーよう受けたわ、あんな依頼ばっかし。一件二件ならまだしもなあ。』 “あんな依頼”、というのは、理不尽な依頼のことだ。 依頼人に金があるにしても受けたくねえ。そういう依頼。 依頼人が強姦した女性を、後処理のために殺す。 依頼人以外には理解できないクソくだらない理由・怨みで対象を殺す。 そういった依頼だ。 殺し屋には殺し屋のプライドがある いくら金を積まれても、便利屋間隔でくだらん依頼に使われてはかなわん。 まさに正しい意味で「役不足」である、ということだ。 …これはあくまでも他の“俺ら以外”の殺し屋の意見で、俺ら(雛と俺)はそんなことちっとも思わないんだがな。 『しかし…27件目は、ちょいとどうかと思うたわ。あれはかなり値が張ってたからのう。』 「27件目、か。」 問題の27件目。 雛はなんともないと言っていた依頼。 あれは、依頼人の本来の目標含め家族全員の惨殺の依頼。 特に子供が多いのが、皆が避ける理由でもあった。 殺しをする人間は当然常人より殺しに関して耐性があるのは当たり前ではあるが、子供になるとわけが違う。 俺が見てきた限り、殺し屋になった人間は、人間の、大人の汚さ、愚かさを嫌いになって、こちら側に来た人間が大半である。 そうなってくると、こどもは、大人の汚さというものが全くない。 そこにためらいが生じてくる。 殺し屋は、犯罪者ではあるが、人間である。 憎しみも悲しみも同情も、他人に比べれば「薄い」だけであり、ゼロではない。 『みーんな嫌がってたで。あの依頼。』 だが、私と雛から言わせれば、そんなのきれいごとにすぎん。 「みんなは嫌がった。だが俺らは嫌がらなった。それだけだよ。」 口から出かかったいろんな言葉をこらえて、ただそう答えた。
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