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6話 氷解と真実
0課の事務員である長谷川さやかは、仕事ができない。
他部署からの依頼もすぐに忘れ、ミスも多い上に注意されても同じミスをまた頻発。
始業してすぐ着手しても午前中で終える仕事量なのに謎の残業時間がある。
あまりにも見かねられ、通常は1人大体3部門くらい仕事を任されるのだが、1部門の極一部分のみに仕事を減らされたにも関わらず、残業が減らない。
任されていた仕事と言えば、特に火急の納期のない簡単な入力作業である。
終いには同じ部署の後輩事務員が入力作業を手伝う始末。
長谷川は庶務を担当しているが、他部署からデータを送って欲しいと伝言を受けてもすぐ忘れるのでクレームの電話が鳴る。
それも1度でなく2度、3度までもだ。
「長谷川、これが何度めの注意だと思っている」
「はいはあい、もーーしわけありませぇん。次からは気をつけるんでぇ」
いくら上司含め周囲から注意があっても生返事、しかも仕事の合間にマニキュアを塗っていたりする事も非常に多い。
備品の補充も気が付かないし、仕事を任せられる状況ではないので他の隊員でリカバリーするしかない。
その間、手持ち無沙汰になる長谷川といえば…抽斗から取り出した雑誌をめくりながら遊びに行く為の服装を物色している。
「次か。本当に次があればの話だがな…」
0課の隊長がキツい灸を据えて出動して行った直後、長谷川さやかは悪ガキよろしく毒づきながら舌を突き出した。
「一昨日来やがれってのよ、この鉄仮面が!」
実は彼女は優秀な結界師を輩出する的場家に産まれたが、出生して1~2歳前後を過ぎても能力が発現しなかった。
ゆえに呪力も才能も持たない失敗作と判断が下り、一般家庭へ養子に出される事となった。
処が、である。かわいい顔立ちの彼女はすぐに養父母に懐き、我儘一杯に甘やかされて育った。
若く美しい女は自分だけでいい…そんな捻じ曲がった根性の彼女が同僚と“仲良く”できる訳もなく、異動してきた後輩が男性なら誘惑し、同性の場合は加減の知らない劣悪なイジメで退職に追い詰めるサイクルを繰り返していた。
いま、長谷川には目の上の痰瘤が2つある。ひとつは、憎たらしい藤咲文音。恋人の西崎を寝取ってやったというのに、喚きもしない。
女として冷徹すぎるのが寧ろ不気味で相容れないし、どうにかして蹴落とせないだろうか?!
もう一つはイジメ続けていた経理担当(女子)が辞めた穴埋めに異動してきた年下の後輩男子·的場 士郎。
経理事務員兼、戦闘呪術師として諜報部隊である二番隊から転属してきた変わり種で、なぜか誘惑にも動じないし藤咲文音に傾倒している変人だ。
幽霊だの化け物を退治する連中が9割がたを占める会社だが、長谷川には視る能力は備わっていない。
ゆえに呪術師はもとより、長谷川さやかは霊的な事象を馬鹿にして見下げていた。
「ちょっとお! 的場士郎、さっき頼んだ書類…全然できてないじゃない! 新人だからってサボってんじゃないわよ」
「はあ? サボるも何も…あんたが任された仕事だろ。他人に丸投げするな」
名指しで呼ばれた少年は侮蔑も顕に長谷川を見遣ると、眉間に皺を寄せる。
「な、な、な何よ新人の癖にこのアタシにそんな口敲いていいと思ってるの?!」
「この場に、アンタに同意するやつなんか居ない。それに、俺は至極真っ当なことしか言ってないぞ」
「きいいーーーっ、何奴も此奴も人のことバカにしやがって!」
にべもなく言い捨てられた長谷川は、やがて顔を怒りに赤らめると金切り声で発狂し、的場少年に電卓をぶつけて部屋を出ていった。
「あんな奴がよく、今までクビ切られなかったな…」
開けっ放しの長谷川の抽斗は彼女の人格を表したように雑然としており、紛失したと言っていた書類が複数枚混ざっていた。
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