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「新さん、天気が崩れる前に私帰りますね」
午後5時、黒江との勉強も終わり、新が書斎のパソコンで仕事をしていると篠子がそう言いにやって来た。
朝の快晴が嘘のように夕方になるとどんよりとした重い鉛色の空が広がってきていた。
大雨や雷の警報まで出ていた。
山中という事もあって、大雨が降ると土砂崩れ等の危険もあって、このように普段は夕食時まで屋敷にいる篠子は早めに帰る。
「立夏さん、傘持たずに行きましたけど、雨に降られないと良いですけどね」
「はあ・・・」
いつもは5時前には学校から帰って来ていたが、この日は6時を過ぎても一向に帰ってこなかった。
一人きりの屋敷で、新は温くなったコーヒーを飲み干し、窓の外を眺めていた。
雷鳴と共に、打ち付けるような激しい雨が降りだした。
*
「どっ、どうしよう」
石段の終点にある大きな葉桜の樹下で、立夏は雨宿りをしていた。
どしゃ降りな天を仰ぐと、遠くから雷鳴が聞こえて、立夏は寒さや恐怖から震えていた。
今日は日直だった。
そのあと、補習をしていた朱希を待って、ちょこっと遠回りをしながら帰っていた。
朱希と別れてすぐだったポツポツと雨は降りだした。
立夏はため息をついていた。
雨は止む気配もない。
このまま待っていても夜は更けるだけで、私有地だから誰とも会わない。
濡れるのを覚悟して、歩き出そうとした時だった。
向こうから人影が現れた。
月明かりに照らされ露になったその正体を見て、立夏はビックリしていた。
「新さん?」
そこには傘を差した新が立っている。
「遅い、なにしてんだ、こんな天気に。危ないだろ、ほら、これ差せ」
新はもうひとつの傘を立夏に差し出した。
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