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「朱希、待ってるかな~」
7月某日の朝、珍しく寝坊をした立夏は、牛乳をイッキ飲みしてロールパンだけをくわえて慌てて屋敷を飛び出した。
「立夏ちゃん、おはよう~」
いつものように黒江が新の家庭教師をしにやって来ていた。
「おはようございます」
黒江に継いで、見知らぬ青年も入ってきた。
青い瞳と柔らかそうな赤い猫っ毛をした美しい青年だった。
その不思議な青年と不意に視線があった。
「?」
誰だろうと不思議に思ったが、立夏には考えている時間がなかった。
*
応接間で新は彼を待っていた。
黒江も一緒についてきた。
そこには挨拶さえ無かった、ただ沈黙だけが流れていた。
「随分、見ないうちに軟弱になったな、新」
無機質な声だった。
「ふん、お前は相変わらず感じ悪いな」
新は警戒していた。
母が何の為に、彼をここへ送ったのか、真相が訊けずじまいだった。
「何しに来たんだ?」
「蓮見川家の為に跡継ぎを残さないといけない、俺はその代行」
淡々と彼は言った。
「新はそれが不可能だから、その分を俺が補うって事だ、それが俺の役割だろ?今までも。
幸いな事に、俺はちゃんと蓮見川家の血を引いてるしな」
新はやっと事態が理解できた。
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