箱庭恋愛のススメ

4/14
前へ
/27ページ
次へ
夕食、篠子が美味しいご馳走を用意してくれた。 縦に長く大きなテーブルの端と端に、立夏と新は向かい合って座り食事を進めた。 「篠子さん、こんなに離れて食事するんですか?」 篠子は苦笑するだけだった。 新の席まで極端に離れてる。 立夏は不思議に思った。 新は一切こっちを見ようとも話し掛けても来ず、機嫌が悪そうにガツガツ鮭のソテーを食べている。 「あの、新さん」 立夏は思い切って話し掛ける。 すると新は睨み付けて来た。 「喋るな、耳障りだ」 辛辣な言葉。 立夏はぐっと堪えて、言われるがまま黙り、食事を進める。 立夏は幼い頃に両親を亡くしていた、以来 祖父母のもとで育った。 祖父母は大きな会社を幾つか抱えていたが経営不振に陥り倒産寸前だった。 そんな時に救ってくれたのが、祖父母の旧知であった新の父親であった。 無利子無担保で多額の資金を出し、あらゆる面で救済してくれた。 だが、立夏を自分の息子の嫁に貰うという条件付きで。 優しい祖父母はさすがに躊躇ったが、立夏は祖父母へ恩返しがしたい一心でその条件を承諾した。 今さら後に引けなかった。 「大丈夫ですか?立夏さん」 「大丈夫です。ありがとうございます、篠子さん」 篠子さんは心配してくれた。 「今日、制服を受け取ってきました。 来週から、ふもとの高校に転入ですよ」 立夏は17才のまだ高校3年生であった。 高校だけは卒業したいと言ったら、新の父も理解してくれて、近所の私立の高校へ転入を許してくれた。 立夏は笑顔になった。 「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、わたし負けません!」 机に飾った祖父母と自分の記念写真を見て、立夏は意気込んでいた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加