†逢†

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少女は一人で眼を覚ますのが 苦手だった。 ぼんやりと柔らかな寝台の上で リリが目覚めると、 広く大きな寝台の横に 据えられた、 小振りのチェストの上の 卓上灯のみが 暖かな明かりを点す、 静かな寝室の光景があった。 「ん……ぅ?お母さん?」 小さな寝起きの声で リリが呟くと、 「次期様……お母様とお父様は、只今、禊の最中です」 「あ……お姉さん」 リリの専属となった女官が 部屋の灯りを灯しながら、 優しく応えてくれる。 リリがこの屋敷に来て まだ、2日。 しかし、 リリは既にこの屋敷の皆と 漸く、逢えた父と母の事が 大好きだった。 「リリ、お母さんのお歌、きいてたのにねちゃった…、」 身を起こしながら 落ち込んでしまうと、 「ぷんぎゃ~」 間の抜けた声が 室内に響く。 どうやら起き上がる時に 押してしまったらしい、 可笑しな姿のヌイグルミ。 「あっ!ぎゃーちゃん」 ヌイグルミの声に思わず、 クスクスと笑ってしまう 女官を余所に、 リリは 慌ててヌイグルミを探し当て 両腕で胸に大切に抱き締める。 リリが母達から 引き離されそうになった時、 激しく泣いて 母から離れなかったリリに、 ―「余り、泣くな。息が苦しくなってしまうぞ」― と、母がリリを優しく抱き締め、 背中を何度も撫でながらあやし、 ―「ほら、これもお前…、リリを心配している」― と、可笑しなヌイグルミを見せ ぽってりとした体を押すと 間の抜けた声を上げた ヌイグルミ。 そのあまりに可笑しな姿と 間の抜けた声に驚き、 リリが泣くのを止めてしまうと、 ―「リリは良い子だな」― そう言って母は 華のように綺麗で優しく微笑み、 リリにそのヌイグルミを 抱かせてくれた。 その後、 一度はどこかに忘れたが 次の日に見せてもらってからは ヌイグルミを手離さないリリに、 ―「仕方ない、大切にするのだぞ?」― と、約束して 母から貰った大切なヌイグルミ。
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