†逢†

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リリはヌイグルミを 見たことがない訳でも 存在を知らない訳でもなかった。 父と母に逢えるまで 過ごした部屋には、 沢山のヌイグルミに玩具、 絵本もあった。 何時から自分が その部屋に居たのか、 リリは知らない。 今居る寝室よりも 小さな部屋に、 小さな一人用の天蓋付きの寝台。 沢山の洋服が納められた 壁一面の大きなクローゼット。 沢山のヌイグルミに玩具に絵本。 リリの身長よりも 遥かに高い位置にある小さな窓。 リリには開けられない扉。 まるで、リリを含めた 玩具箱のような部屋。 そこが、 リリが物心付いた時から居た 世界だった。 日に一度は知らない女官達が 日替わりでリリの部屋を訪ね、 無言で、時には雑に、     タライ 大きめの盤を用意し、 禊と着替えだけを 義務的に済ませて出て行く。 言葉すら録に教えられずに ただ、 本当に育てられただけのリリ。 唯一、女官達とは違うは、 時折、 無言でリリの部屋に訪れる 短い白銀の髪に 琥珀の瞳の男性だけ。 彼はリリに 【リリ】と云う名前を教え、 僅かな言葉と父と母。 リリの 両親の事を教えてくれた。 ―「お前の母は銀月の髪に月色の瞳を持つお方。父は深藍色の髪と瞳を持つ者」― ―「ぎん…げちゅ……?しん…あい……?」― 淡々と男の告げる言葉の意味が まだまだ理解出来なかった リリに、 ―「これがお前の父と母だ」― ―「りりのおかぁしゃんとおとぉしゃん」― 数日後、 再び、リリの元を訪れた男は 長く美しい銀月の髪に白月の瞳、 リリが絵本で見た どのお姫様よりも綺麗な母と、 月夜の空を思わせる 深藍の髪と瞳の、 絵本の王子様のような父が 描かれた、 小さな姿絵を見せてくれた。
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