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それからは、
リリは満月の夜が好きになった。
初めは気付かなかったが、
姿絵の父と母はまるで、
満月の夜ように綺麗で美しく
仲良く寄り添って居た。
何故、リリと一緒に
居てくれないのか。
寂しくて、悲しくて
何度も夜空を見上げ
泣いた事もあったが、
―「お前が五つに成れば、父と母の元に連れてやる」―
そう冷たく吐き捨てた
男の言葉を信じて、
-『5才になったら、会えるもん』-
リリは必死に、
まだ、幼く小さな心で
寂しく悲しい孤独に耐えた。
そうして、
5歳の年を向かえて暫く、
お祭りと云う
絵本でしか見たことのない日。
リリは母が子供の頃に
着ていたと言う、
特別な
濃紺のワンピースドレスを
着せられ、
髪を綺麗に結ってもらい、
初めて部屋の外に出され
念願の父と母に逢う事が出来た。
始めは髪と瞳の色の違う二人に
心の中で
戸惑ってしまったけれど…。
直ぐに、リリの知る、
髪と瞳の色に戻った二人。
リリを優しい温もりで抱き締め
大切にしてくれる父と母に、
暇があれば、
リリの遊び相手をしてくれる
屋敷の者達。
リリの禊の仕度を行いに
女官が席を外した室内で、
カサリ-と
まだ、寝台の上に居る
リリの側で、
紙の掠れる音が聴こえた。
それは、
「あーッ!蜜玉いっぱいッ!!」
父の字で、
【お母さんから、リリへ】と
書かれた蜜玉の袋。
今朝、母が父に
蜜玉を買って来るよう
言っていた正体。
それらは、
全て、共に禊の出来なくなった
リリの為。
「ぎゃーちゃん、リリね、お父さんもお母さんも大、大、大好きッ!」
弾ける笑顔と共に
鳴き声から名付けた
ヌイグルミの名前を呼びながら、
何も知らないリリは
無邪気に無垢に
ヌイグルミを抱き締め、
喜びの声を上げていた。
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