†祷†

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深夜の静寂に沈む 聖域の地を クロアは一人、 聖殿を目指し 全力で疾走していた。 セキルと共に 先に聖殿へ帰って居る筈のロア。 書架棟で まるでナキルの告白に 気付いたかのように、 唐突に クロアとナキルを 二人きりにして立ち去った姿。 クロアの 思い過ごしなのかも知れない。 ロアの性格を考えれば、 単に 元、同僚であった事を気遣い 二人きりにしたと考える方が 自然だった。 しかし、 ―「…俺ッ……」― ―「聖域に戻る!」― ナキルの言葉を遮った時の ロアの間合い。 その後も クロアとは一切、 視線を合わさず、 明らかに不自然で、 強引だった様子を思えば、 もしかしてと考えてしまう。 そして、 それを思うと あの広い聖殿の私室に ロアが 一人で居るのかも しれない状況が 我慢できず、 出来るだけ早く 聖殿を目指すクロアだったが、 漸く、見えてきた 聖殿の光と影。 正面、入口の大扉がある 聖本殿。 深夜であっても幾つかの廻廊と 聖本殿の大扉を照す灯りの中、 クロアが大扉前の 短い階段の下まで辿り着くと 階段の最上段、大扉の正面に、 まるでクロアを出迎えるように 聖主が立っていた。 夜の帳を照す 静かな灯りの中で 黄金色の髪が鋭く輝き、 クロアを無言で見下ろす 深い蒼水晶の瞳。 聖なる扉を守護する 黄金の獅子のように、 夜であっても 決して霞む事の無い 威厳に満ちた姿。 クロアを出迎えると云うよりは 侵入者を裁定する 門番のようにも見える聖主に、 クロアは脚を止め、 階段を踏む事も出来ずに ロアの元へと 逸る気持ちを抱えたまま 聖主を見上げ、 立ち尽くした。
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