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それは何の前触れもなく訪れた。
──ザザザザ…
赤い番傘を下げ、山道を疾走する影があった。
人が交通する為に作られた馬車や車一台が通るのがやっとと言った狭さの山道。道の両側には鬱蒼とした森が茂り、昼間だと言うのに周囲は暗い。
「やれやれ…面倒な事になったな…。」
ひとりごちながら、金髪の神父姿の女、リンは自らの疾走に並走してくる存在がいる森に彼女にしては珍しく鋭い目を向けた。
「─」
…ォン…
リンの声に反応し、空気中の水が凝り水の球を形作る。
水の球はまるで滑空する鳥のように緩く孤を描き、森の中に矢のように飛んで行く。
「……。…!」
命中。しかし何の反応も無い、と思った次の瞬間。
鼓膜を裂かれるような咆哮が響き、森の木々を薙ぎ倒して体高が5メートルは在ろうかと言う魔族がリンの背後に躍り出た。
「わぁ…おっきいね。」
暢気な反応をしつつ、リンは踵返して魔族に向き直る。
「それに…」
溶けた体の表面からは瘴気が漂う。
「──酷い臭いだ。」
魔族の体は肉の溶けた容姿だった。元は鳥と獣を合わせた体のようにも見えるが、皮が剥がれて判別は付かない。
理性を失った異様な輝きを持つ8つの目がリンを捉えていた。
(こんな予定じゃなかったんだけどなぁ…)
「…。本当に面倒だ。」
呟き、リンは背中に忍ばせた刀に手を掛けた。
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