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町の中は沢山の人で溢れ返っている。観光客、買い物客…沢山の靴音が辺りに響いては埋もれていく。一見して賑わいのある穏やかな町のように見えるそこは、周りを見渡せば狭い路地裏に腹をすかした子供や老人がはびこり、治安がいいとは到底云えないことが見てとれた。
「相変わらず、どこの町も進歩がない。」
人混みから避けた路地の壁にフードを被った少年のような少女のような人間がもたれ掛かりながら呟く。
オッドアイに紫のような髪、垂れた精気のない眼には何も映ってはいない。
謎の少年はきびすを返すとそのまま路地の中へと姿を消した。
路地を抜けると目の前には最悪な光景が広がっていた。
「ひどい有り様だ。」
少年はゆっくりと歩みを進めていく。
壊れたレンガの家。井戸はかれ、食料も水もない。所々から臭う悪臭。ボロボロの服をきて、地を這う人間。
思わず顔をしかめた。
「み、水を…パン一欠片でも…」
痩せこけた老人が少年の着ているコートの先をつかんですがり付いてくる。それを、少年はなんの感情もない瞳で見つめ返した。
「生憎だが、僕は今、持ち合わせがないんだ。」
少年の慈悲のない言葉は老人を容赦なく突き放した。コートから老人の手を払い、また、一歩ずつ先へと向かう。
「悪魔だ。」
後ろの方から老人の呟きが聞こえたような気がした。
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