Ⅰ、覚悟

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◆  風紀委員の休憩室は、それなりに広いスペースは確保されているものの、寝台とそれから少しばかりの電化製品に押しやられ、かなり狭いスペースになっていた。  もっとも、一番の原因は真ん中に部屋の大きさを考えずにズドンッと置かれたテーブルと、無駄に豪奢な椅子が原因だろう。  足を入れるスペースさえままならない程の物を入れるとは……、いや、でも歴代の生徒会長が作り上げた生徒会室から考えると、きっと、これもまた何処かの金持ちがやらかしてしまった所業なのだろうが‥。  その一番奥の方――所謂、上座に当たる部分に椅子が二つ並べられていて、虎はそちらに向かって行き、椅子を引くとこちらを振り向いて俺を手招いた。 「ここへどうぞー、お姫様」 「……ありがとう」  お姫様、という単語に若干座るのを止めて帰ろうか、とも思ったけれど……抵抗しても意味が無い、と判断した俺はそれに渋々従う。  俺が座ったことを確認すると、虎も横にあった椅子に腰を落とした。  机の上には、青い水玉模様のカップに、半分程ミルクが注がれた状態で放置されている。  ……取っ手部分に黄色い猫の様なマーク(多分虎だろう)が描かれている所を見ると、恐らく虎のカップだろう。むしろ、人間的な目をした、若干恐怖心を煽る、ある意味奇才と呼ばれるこの絵の才能は――虎でしかありえない。 「あっ、牛乳そのままだった。片付けないと洋斗に怒られる」 「洋斗は虎の小姑か……」 「あの人ねー、あの顔で案外細かい事にうるさいよ」  ぶぅ、と口を尖らせ、虎はふと俺に視線を向ける。 「叶芽、何か飲む?」 「いや。もうすぐ昼だし、今はやめとく」 「分かった」  うんうんと頷いて、虎はミルクをグイッと飲み干すと、机の上に置く。  そして、椅子をズズズッと俺の側へと寄せ、俺の椅子をズズズッと自分の側へと向け――。 「虎、何をやってる」 「……こうしないと抱きつけないじゃん」 「今は、抱きつかなければ良いだろう」  暗に『部屋に戻ってからで良いだろう?』と言ったつもりだったのだけれど……、虎はふと目を細めると、俺の両手を掴み、そのまま俺を下から覗き込んだ。
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