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「叶芽には、部長さんが居るから? 僕は、抱きつく価値も無い?」
「虎?」
突然変わった彼の雰囲気に、俺は若干たじろぐ。
その隙を見逃さず、虎は俺の椅子を両足で挟み込み、体を近づけた。
「僕はもう、……待ちくたびれちゃったよ」
「虎、俺は乙月がどうとか言ったわけじゃ……、つッ」
きっと彼は何か思い違いをしている、と弁解の言葉を続けようとした俺。
けれど、それを受け入れない、と言いたげに俺の頬を両手で包み込んだ。そして、甘えるように額と額をくっつけ、瞳を閉じる。
「僕は、この数日ですっごく僕自身の変化に戸惑った。でもね、僕は僕でしかないから、受け入れようとしたんだよ」
「うん」
ぽつぽつと言葉を落して来る虎の姿に、俺はだた静かに聴く事に徹することにして、近くに在る虎の顔をジッと見つめる。
髪の色と同じく、淡い色合いの長い睫毛、その下にある、色合いから言えば黒……だけど、光の加減によっては青に見える、濃いグレーの瞳。
探るように観察して居た俺の視線に気付いたのか、虎はふと目線を上げて、不安そうな瞳で此方を見つめた。
「でも‥僕は自分が押さえられない。何を触ったのか、何に干渉したのか……それさえも覚えて居ない。でも、僕は確実に“人形”を造ったのと同じ様に、何かに触っちゃったんだよ」
「人形?」
「うん。僕たちの部屋にある、僕の人形」
「ああ、トラミンか」
頭の中に思い浮かんだ、お世辞にも可愛いとは言い難い土偶の姿。
それを思い浮かべで言葉にすれば、虎は不思議そうに「トラミン?」と首を傾げた。
――忘れて居たが、トラミンという名称そのものは、俺がつけた物であって、虎自身がつけた物ではないのだ。
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