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「虎。俺はお前が、」
「僕は叶芽が好きだよ」
そうすれば、きっと……虎はこんなに苦しまずに済んだのだろうし、美里君は傷付かずに済んだのだろう。
ただ、俺は怖かったのだ。
どんな理由であれ、虎は自分の心の中に入って来られる事を嫌う。
それはつまり。一歩間違えば、俺は虎を失うという事に繋がる。
俺は――彼が大切になればなる程に、虎の問題を解決する術を失ってしまっていたのだ。
きっと本当は、俺自身、よくよく分かって居たのだろう。
虎が俺を特別とするのは、俺が虎を特別だと見ないからだと。
……そう、戒めているからだと。
でなければ虎が俺を拒絶する事は必至で、愛する事を毛嫌いする彼が、ここまで俺に頼ってくれる筈も無いのだ。
けれど、それもそろそろ限界なのだという事も、俺は理解して居た。
「叶芽……、叶芽。僕は、叶芽が居れば‥それで良い」
虎が望むように、居るだけの存在などにはなれない。
必死に抱きしめてくる温かい温もりを抱き返し、俺はゆっくりと瞳を閉じた。
(俺は、‥お前が思っている様な人間じゃないんだ、虎)
望まれれば望まれるほどに手離し難くなって、傍に居れば傍に居るほどに、虎という人間を縛り付けてしまう。
この俺の傲慢さが、虎を苦しめていた一端なのだから。
(……俺は、俺は、)
虎が大切であればあるほどに、虎の恋人たちがした様に、彼の心を求めてしまう。そして、その結果‥虎が俺から離れて行く、という行動に繋がるのが――物凄く怖い。
「虎、……ごめん」
思わずポツリと漏らしていた言葉に、虎はふと俺から体を離し、不思議そうな目で俺を見つめた。
「どうして、叶芽も謝るの? 洋斗も叶芽も会長も、皆々‥どうして僕に謝るの?」
「洋斗も?」
「うん。僕を救えないって、全員して謝る」
洋斗も、それから会長も?あの二人であっても、虎を救えない?
それはつまり、あの二人であっても、虎のこの状況を救うことは出来ないと?虎はずっとこのまま、彼自身理解できない苦しみに、延々ともがき苦しむしか無いと?
思わず、ギュッと強く拳を握り締めた。その俺の手を、虎は背に回していた手で、そっと包み込んだ。
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