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「叶芽も、僕を救いたい?」
「……救いたい」
「そっか」
自分の事なのに、自分の事では無い様に答えて、虎は俺の肩に頭を押し付け、息を重く吐き出し独白でもするように言葉を紡ぐ。
「あのね、叶芽」
「ん?」
「僕は、僕自身をを制御できない。それはすごくすごく、良く解ってるんだけど、どうしようもない」
「……うん、」
「だから、救われたいって願うことで、叶芽が離れて行く事になるなら。僕は救われたくないって……そう思うんだよ」
その虎の言葉に、俺は彼に頭を押し付けられたまま、瞠目した。
必要以上に鋭い虎は、きっとずっとずっと昔から、自分の異質さには気がついて居たのだろう。気が付いていて、それに鈍感なふりをして、俺や千里の傍に居る事を、彼は願ったのだ。
救われたいと願う事で、虎は――俺を、千里を、失うかもしれないと分かって居たから。
「僕は、叶芽が好きだよ。……好きなんだよ」
ギュッと抱きつき、掻き抱く様にして俺を抱きしめる虎。
でも俺を好きになってくれる彼は、同時に別の事も理解している。
「でも、僕は自分が解らない。好きで好きで仕方なくても、一瞬で捨てることが出来る」
今までずっと、虎がそうして来たように。
「だから……それが怖い。僕は叶芽を嫌いになりたくない。叶芽に居て欲しい」
「うん、」
「なのに、僕は僕を簡単に変える」
美里君を『好きだ』と言った口で、同じ様に『嫌いだ』と言った様に。
虎は、ずっとずっと、それを怖がって居た。
それなのに、そんな事にも俺は気付けなかったのか。
ミルクティ色の髪が、ふわふわと頬をくすぐる感触に目を細めながら、俺は自分の愚かさを呪う。
それでも俺は、虎を救いたいと願いながらも、虎を失いたくないという、自分勝手な願いを抱く。
(……虎が怖がってるのに)
俺はこの大切な彼に、何をしてあげられるのだろうか。
そう思った瞬間、ふと……数日前、虎が『眞鍋先生は虎の弱味を持って居るからこそ、虎に弱い』と言って居た。
それはつまり……。
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